人工知能の中の機械学習を用いて、146 名の被験者の4つの異なる大きさの痛み刺激を最も強い痛みとそれ以外が区別できるかどうかを確認しました。
比較的あてはめの良い被験者は80% 程度のほぼ完全回答であり、全体でも 67% の判別精度でした。現在、さらに良い区別ができるように取り組んでいます。
複数の参加者のデータ(学習データ)を用いて判別モデルを作成し、新たなテストデータ(区別したい人のデータの中から学習データで使っていないデータ)の不快レベル(2レベル)を脳波の信号の中で周波数という α 波等に代表される特徴量を使って推定・判別しました。現段階では、不快とそうでない痛みを約 70% で判別できています。同じ大きさの痛みであったとしても本当に治療をして欲しい痛みの成分を取り出すことができるのです。
私たちが開発する機器がうまく動いているかどうかを調べるためには、痛み止めの効果があるかどうかをきちんと測れていることが重要な指標になります。しかし、患者さんから頂くデータは、感じておられる痛みの程度も様々で、人工知能を用いた開発には不向きです。さらに、健康な参加者に対しては、倫理的観点から鎮痛薬を服薬していただいてデータをとらせていただくことはご負担が大きく望ましくありません。
精度の高い機器を開発するために投薬実験を行った場合と同様の状況を再現することが必要でした。そのために、参加者の方々に運動をしていただいて、ランナーズハイの状態で分泌されることで知られているエンドルフィンの自然分泌を促すことによる鎮痛効果を使って検証させていただく試みを行いました。この検討を通して私たちの開発中の脳波に基づいて算出した痛みスコアで検証することができました。
注射中の痛い間のデータを人工知能の中のディープラーニングの一種であるLSTM (Long short-term memory) と言う方法を用いて評価したところ、痛いときには脳の信号から痛みの成分を取り出せることを確認できました。この成果は2019年度の第53回日本ペインクリニック学会で優秀演題に選出されました。
機械学習を用いた本法が慢性の痛みの客観的評価に応用可能であることを、患者さんにご協力いただいて予備検討で確認しています。